過去の実施記録

第28回 学術講習会

第28回学術講習会

森田智先生は臨床、研究、教育と多方面に忙しくされているなか、今回の常陽会学術講演会講師をして頂くことをご快諾いただきました。森田先生は本校の教員養成科の他、鍼灸師養成施設でも講師として後進の育成にご尽力されています。

さらに、先生は2008年には約3年間、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号で船上の鍼灸師としてのお仕事もされており、貴重な体験をされている鍼灸師でもあります。鍼灸師はもはや国際化の時代に突入しています。国際標準化機構ISOにおける鍼灸領域に関する業務もされており、多岐に渡って鍼灸業界の為にご活躍されています。

今回は、病院内での鍼灸師の役割で、診察及臨床研究についてご教示頂きました。先生は現在、千葉大学大学院医学研究院・和漢診療科の鍼灸外来主任とし日々臨床に取り組まれています。大学病院だけでなく民間のクリニックにも携わっていて、多くの鍼灸師が活躍できる場を広げる為の活動にもご尽力されています。鍼灸の受療率の低迷から抜け出して、多くの国民に鍼灸について知って頂く為には、病院内に鍼灸外来を増やすことの重要性について説かれていました。また、産後ケアに対して鍼灸治療を充実させる取り組みの他、チーム医療に対する必要性についてもご教示頂きました。

臨床研究においては、学会報告された臨床研究について3つ紹介して頂きました。

初めに耳鍼の貴重な有害事象の例について採り上げて下さいました。小さな粒鍼が穿孔された鼓膜を通して中耳に知らずと入っていくことの危険性を知ることで、耳鍼に限らず鍼灸臨床におけるリスク面について再認識する良い機会となりました。

次に、漢方医学の?血と血管内皮機能障害との関連性についてご教示頂きました。アテローム硬化の前段階として血管内皮機能障害に至る機序の他、障害を把握する指標として、ABI(Ankle brachial index)、CAVI(血管の硬さの指標)、FMD(血管内皮機能検査)をご紹介頂きました。さらに、臨床研究により、この血管内皮機能障害と東洋医学ならでは?血スコアとの関連性が示されたことで、鍼灸臨床において血管内皮機能障害を予測し、患者様に生活指導等のアドバイスをしたり、医療機関の受診を促したりすることが可能となります。鍼灸臨床は治療技術の前に、患者さんの身体を良く観察して、病態把握をしっかり行うことが大切さを理解することができたかと思います。

最後の研究報告は、Long COVIDによる嗅覚障害に対して迎香穴を併用した鍼灸治療が奏功した症例を紹介して頂きました。迎香穴は知識のうえ耳鼻科領域に効果的であることは知識として認識している方は多いかと思います。しかし、今回の症例において、実際、どの程度効くかについて客観的にスケールを用いて示されたことは、今後の臨床家の為に大変役立つ内容でした。今回の症例を通して、嗅覚障害と全身倦怠感が連動して症状が改善し、改善の仕方は症状の減少と増加を繰り返しながら漸減していくという過程を理解することができました。

後半の実技のデモストレーションは、嗅覚障害に対する迎香穴に対する刺鍼技術でした。指す方向や深さの他、響かせる技術などポイントを説明しながらの指導で、聴講者は興味津々。コロナ禍の為、マスクは極力外さずにペアを組んで無言で練習実践。在校生は自己刺鍼で練習を行い、各々、鍼の響きの感覚を味わっていました。

講演後には、質問もたくさんあり、学術講習会は大盛況でのお開きとなりました。今回の講演で得た内容を臨床にフィードバックして大いに活用して頂きたいと思いました。また、病院内で活躍する鍼灸師がもっと増えて欲しいとも感じました。今回の講演を通して、鍼灸師は臨床のみならず、研究そして教育と様々な分野で活躍することで、仕事の幅が広がり、いろいろな刺激を受けながら更なる成長が期待できると感じました。それでは、またの機会で皆さんとお会いする日を楽しみにしております。 (文責 大内晃一)